澤田酒造の酒造り

酒造りへの想い

普通酒から大吟醸まで昔ながらの製法で手間をかけて酒造りをしています。それは、米の旨さを引き出し、濃醇でありながら雑味を出さないようにするには、古いけれど伝統の方法が一番と考えているからです。
昔から良いと言われたこと、良いと言われた道具を守り伝えながら、基本に忠実に。知多半島という発酵食文化圏の地酒として、自然と調和しながら、料理を引き立て食に寄り添うお酒造りに信念をもって取り組んでいます。

原料にこだわって

〜お米と水でつくるシンプルなものだからこそ〜

米づくり

お米は酒質の良し悪しを決定づける最大の要因です。米で酒が決まるといっても過言ではありません。
当社では、最高級の兵庫県特A地区「東条 山田錦」をはじめ、北陸産「五百万石」、広島県産「八反錦・千本錦」、そして地元で契約栽培する愛知県産「若水・夢吟香」などの酒造好適米を使用しています。

もともと造り酒屋は地元で取れた米を原料にしてお酒を造っていましたが、酒造りのレベル向上に伴い、酒専用の米を使用するようになりました。今では高品質酒はすべて酒造好適米でつくられます。
良い酒造好適米は、雑味の元となる米粒外側の脂肪分やたんぱく質が少なく、大粒で精米作業で割れにくい特徴をもっています。食べるための米は7~8%を糠にするのに対して、酒造りでは20%から30%、大吟醸になると50%以上を糠にして酒造りの原料にします。

最近は地元の米での酒造りが見直されています。
各地で品種改良が進み、特徴的な米が栽培されています。
当社でも、自社田で平成15年から契約農家による県産酒造好適米「若水」の減農薬栽培をはじめました。
現在では、10名近くの農家さんと知多の酒蔵、そして、愛知県の農業普及課、農業総合試験所、食品工業技術センターが協働し、「知多の酒米研究会」として活動し、より良い酒米作り、より良い酒造りを目指しています。

仕込み水

酒の8割以上を占め、また発酵に大きな影響を及ぼすことから、水は大変重要な原料です。
当社では創業の頃より、蔵から2kmほど離れた知多半島の中央丘陵部に湧き出る水を私設の水道をひいて使用しています。
素直な軟水で、ふくらみのあるまろやかなこの土地ならではの酒質をつくりだしています。
毎年夏になると、秋から始まる仕込みに備え、井戸換え(水を全て汲みだして中を掃除すること)と井戸周りの草刈りなど保全活動を行います。湧き出た水は、一部を酒造りに使用し、あとは伊勢湾へと還ってゆき豊かな海を育てます。
里山の水源を保全し続けることが、地域の環境を守り、海の環境にもつながっていると考えています。

製法にこだわって

〜基本に忠実に、手間を惜しまず〜

蒸し米

収穫されたお米は乾燥後、酒米専用の竪型精米機で精米します。
米の温度が上がると乾燥して後の工程で割れやすくなるため、十数時間から数十時間、場合によっては100時間くらいかけ、ゆっくり米を磨きます。
現在当社ではこの工程は行わず、専門の業者さんにお願いしています。

精米した米は糠を洗い流すために洗米をします。さらに水に浸し吸水(浸漬)させます。高精白の米は吸水が速いため、洗米も浸漬も秒単位の時間管理を行います。

いよいよ翌朝朝5時から大型のせいろである、「こしき(甑)」に米をはっていく作業が始まります。6時ごろバーナーに点火すると7時ごろにはこしきの上に蒸気が立ち上ります。1時間ほど蒸し、熱いこしきの中でお米を掘りあげる作業となります。

米は年度、産地、品種によって硬軟、吸水率が異なるため、最高の麹をつくるためにこの蒸し米工程はとても重要。「酒造りは蒸しから」という言葉があるくらいです。
当社ではお米の性質に合わせ、キメ細かい管理が行える木製のこしきを使用しています。それぞれの米の性質にあった最適な蒸しを行い「外硬内軟」に蒸しあげます。
木製のこしきはメンテナンスが大変な一方で、保温性や断熱性に優れ、余分な水分を吸って調湿してくれる特徴があります。昔ながらの道具ではありますが、これからも大切に使用していきます。

麹造り

酒造りは昔から「一麹、二酛、三仕込み」といわれ、麹造りは酒造り工程の中で最も重要なポイントです。各蔵の杜氏が最も心血を注ぐ場でもあります。
麹は蒸米に麹菌を繁殖させたもの。麹菌が原料中のデンプンを糖に、タンパク質を分解してアミノ酸に変えます。アルコール発酵の原料となる糖を生成し、酒の旨みを造る役割をします。

夜間にも作業をしないといけないため、最近ではコンピュータ制御の完全自動製麹も普及していますが高価なため、地場の造り酒屋では「大箱麹」という方法を用いることが多いようです。

当社の場合は「麹蓋」を使っています。
現在では吟醸造りにしか用いられなくなった「麹蓋」を使用し、すべてのお酒を造っています。夜間の作業に加え、一つひとつ完全な洗浄が必要で大変な手間がかかるため、すべてのお酒で麹蓋を用いているのは愛知県内では澤田酒造のみとなっています。

麹蓋で少量ずつ麹をつくることで、均質で麹菌が米に深く食い込んだ「破精込み(はぜこみ)」を可能とし、米の旨みをお酒の中に溶け込ませることができます。

2020年11月27日蔵の心臓部ともいえる麹室が火災で全焼してしまいました。皆さまより多くの激励とご支援を賜り、2021年8月に新しい麹室を再建することができました。誠にありがとうございます。

酒母(もと)づくり

麹、蒸米、水の混合物に酵母を増殖させたものを酒母といいます。お酒をつくる酵母菌を培養する工程のことで、優良な酵母を大量に繁殖させます。

この酵母の増殖方法は、すでに江戸時代に完成された精緻な技術で、品温を低温から徐々に上げるだけで、最終的にはすべての雑菌が死滅して、純粋な酵母だけが増殖します。

酒母造りには生酛と速醸酛の2つの方法があります。
生酛は雑菌を死滅させるために蔵に住みついている乳酸菌の力を使用するもの。速醸酛は雑菌駆逐のための乳酸をあらかじめ添加する方法。
現在ではほとんどの酒蔵で速醸法が使われています。当社は明治時代より速醸法を用いています。

速醸酛の技術開発には当蔵が密接に関わっています。
明治時代後期、知多半島の酒造家で組織した「豊醸組」(現在の半田酒造組合)で澤田酒造の蔵に豊醸組醸造試験場を設置。大蔵省醸造試験所より江田鎌次郎技師を招き、お酒の腐造を防ぐ画期的な酒母造り方法を開発しました。これは腐造防止に大変な成果を上げ、全国の酒造家が訪れたそうですが、これが今の「速醸酛」の礎となりました。

醪(もろみ)

醪とは酒造りの最終段階の状態です。酒母に蒸し米と麹と水を3回に分けてゆっくり加えてつくるため、「三段仕込み」といいます。
蒸し米は麹の力で糖化され、糖を酵母がアルコールに変えていきます(発酵)。糖化と発酵が同時に進むため「並行複発酵」と言われます。

1日目に、タンクの中に蒸し米と麹と水を入れて、活発で強い酵母を増殖させ(初添え)、2日目はそれらの糖化と酵母増殖を十分に促します(踊り)。
3日目(仲添え)、4日目(留添え)に再び蒸し米、麹、水を追加し、糖化と発酵を促し、20~40日で酒になっていきます。

醪の過程で、コクや芳醇さが形成されてきますが、原料米とその精米歩合、麹と酵母、そしてその割合ですでに設計図は完成しており、最後の詰めの工程ともいえます。

この醪タンクは大型化して3トンから20トン程度の仕込が一般化しています。中には屋外に数百トンの仕込みタンクを設置する酒蔵もあります。

当社ではそれぞれの酒質設計に合わせて最適の管理を行うため、600kgから1.5トンと小型の仕込みを行っています。

この工程中での最高温度、日数が酒質に大きな影響を及ぼすため、長期低温醪を守り、キメこまやかで味わい深い酒造りをめざしています。

道具にこだわって

〜木製の道具を大切に使い続けて〜

甑(こしき)

甑(こしき)とは、酒米を蒸すための大きな桶のことです。
現在では、金属製の甑が主流ですが当社では木製の甑を使用しています。

「酒造りは蒸しから」という言葉があるように、米を蒸すことは醪(もろみ)経過や粕歩合など、その後の工程に大きく影響を与えます。 特に良い麹をつくるために、「外硬内軟」に蒸し上げることは重要です。
そのためには、調湿性能の高い木でできた甑がやはり優れています。しかし、熱い中で作業をするため大変な労力であること、そして木製のためメンテナンスが難しいことから、今では金属の甑や連続蒸米機に変わりつつあります。

そのため新しい木の甑をつくる機会が数十年で数えるほどしかなく、甑をつくる技術をもった職人さんも全国で1人か2人残るのみと言われています。当社では、大阪府堺市のウッドワーク上芝雄史さんにメンテナンスをお願いしています。 ※現在は引退を宣言されています。

麹蓋(こうじぶた)

麹を造る作業を製麹(せいぎく)といいます。
当社では昔から用いられてきた「麹蓋」(こうじぶた)を使い麹をつくっています。
少量ずつ盛り分けることで、細かく手入れが行え、その時々に合わせた対応ができます。大箱での製麹と比較して、バラツキが少なく、均質で麹菌の深い破精込み(はぜこみ)を可能とし、米のうまみをお酒の中にしっかり溶け込ませることができます。